二十四節気七十二侯の記事を掲載させて戴いて、あと2か月程で1年になります。それでは、二十四節気のどこをスタートにすればよいかというと、立春を新しい1年のスタートとしていますので、ここで一つの新しい区切りと捉え、今回は、七十二候について改めて説明していきたいと思います。
七十二候(しちじゅうにこう)は、二十四節気と同様に、季節を表すもので、二十四節気の一つを5日間毎3つの候に分けています。
つまり 1年24節気×3=72候という事です。
七十二候は、気象や動植物あるいは自然現象などの季節変化を、短い文章で表現しています。二十四節気が漢字二文字で表されているのに対して、宣命暦では最大八文字で説明をしているため、表現の幅は非常に増えています。これは二十四節気に比べて、表すべき候の期間が短く、候の特徴を詳細に説明する必要があったことから、文字数が増やして、細かく説明を加えることで、季節の流れを綴っていったのでしょう。
二十四節気は、太陽の動きに連動した暦です。太陽の動きと連動しているため、地上に届く太陽の光の強さで季節が変わります。今の感覚で言えば、1カ月を2つに区切る暦と、1カ月を6つ分けた暦が連動しながら、季節の流れを現しています。
二十四節気と七十二侯の大きな違いは、二十四節気は中国で誕生した名称をそのまま日本でも用いられていますため、いわゆる万国共通的なものですが、七十二候は、中国からもたらされた宣明暦と、その暦を参考にしながら、日本独自の季節感を取り入れた略本暦の2つの暦が伝えられています。
七十二侯は、1カ月を約6つに分けているということは、5日毎に初候・次候・末候と移り変わりますので、その地域の特性が描かれています。大変興味深いのでまとめてみました。
宣明暦と略本暦
この2つの暦に記載された内容を個々に見ていきますと、宣明暦(中国)では鳥に関するものが22候と一番多くなっています。これは、鳥が季節の動きに敏感に反応して飛来したり、飛び立ったりするため、多くの人の目に付いたのでしょう。また、中国では鳥に吉凶を感じたり、特別の力があると信じたりすることがあった事から、必然的に多くなったのではないかと思います。
次いで多かったのは、東風解凍のように、風や雷など自然現象を表したもので20候、草木萌動などのように草木などに関するものが12候、鹿や虎などの獣をはじめミミズなどの動物も含めたものが10候、蟄虫始振などのように虫に関するものが7候、そして魚上氷のように魚に関するものが1候ありました。
一方の略本暦(日本)では、草木に関するものが26候と一番多く、二番目は自然現象に関することで22候、鳥に関するものは10候で宣命暦の半分以下しかありません。獣をはじめとした動物も4候しかなく、やはり宣明暦の半分ほどです。
略本暦は、日本の自然環境に基づいた候が多く掲げられていて、宣明暦にはない桜や牡丹、ベニバナといった美しい花々が題材として描かれていることが目を引きます。こうした草木の題材が宣明暦より多いのも、日本の美しい自然環境を反映しての事でしょう。鳥もまた、「雀や雉が海に入って蛤になる」というような中国特有の表現は見当たらず、雀やセキレイといった身近な鳥たちが描かれています。
更に二十四節気は、半月ごとの季節の変化に対応しているので、感覚的に実感が伴うのですが、七十二候は5日ごとに書かれるため、暑さ寒さと言った温度の変化の記載が少ないようです。そのため農業の指標となる二十四節気に比べると、七十二候はあまり重要視されてこなかったため、一般にもあまり馴染みが生まれなかったのでしょう。また、二十四節気が古い時代に誕生した名称が、そのまま節気の名称として使われて現代に至っているのに比べ、七十二候は何度も変更されていることも、なじみがない理由の一つかもしれません。
以上の分類は、私の分類訳になりますが、宣明暦と略本暦の構成内容の違いや日本と中国の気候風土や慣習、伝統的な文化の違いなどが良く分かるような気がします。宣明暦として伝えられた記述を、日本人がどのように改訂させて用いたかを見るだけでも、国民性の違いが分かり興味深いものになります。
先人の知恵として残された七十二候も、二十四節気同様にきちんと勉強して行かないと正しく理解することなく終わってしまいかねません。暦学を学ぶ私たちが、次代に伝えていく役割を少しでも果たして行ければと思います。
ビジネスにおいて、時代をどう読み解くかと問われますが、先人達の感覚を学ぶことから始める事は大変重要かと思うのです。
例えば、立春の初候は、宣明暦でも略本暦でも、「東風解凍」です。東風が厚い氷を解かし始めることから、新しい時代は始まります。中華文化の発祥地は、中原と言われた黄河中下流域にある平原です。彼らからみたら東方とは、どのような意味を成す地域だったのか、それを紐解くだけでも、大いなる学びに繋がるのです。
さて、次は立春の七十二侯について説明をしてまいります。