二十四節気 季節で感じる運命学《大雪》染谷康宏

今回は「大雪(たいせつ)」です。大雪は、二十四節気の第21番目で、太陽黄経は255度になります。

2018年の期間は12月7日から12月21日までとなります。

二十四節気で読む場合には、大雪は「たいせつ」です。前回の小雪(しょうせつ)と同様の読み方で「おおゆき」ではありません。もちろん天気予報で用いる気象用語としての「大雪(おおゆき)」はあります。天気予報での大雪(おおゆき)の定義は、「大雪注意報基準以上の雪。季節予報および天候情報においては、数日以上にわたる降雪により、社会的に大きな影響をもたらすおそれのある雪。」と若干長めの説明が書かれてあります。分かりにくいのですが、「社会的に大きな影響」があるという事が大切なポイントです。

雪国の方々から見たら大した雪ではなくても、関東地方ではすぐに交通機関がマヒしてしまいます。つまり何センチ積もったら大雪というより、社会的影響の方が重要視されているという事なのでしょう。この考え方は、昔も今と同じだったのではないかという気がします。これは、表現を変えれば昔も今も、そして中国であれ日本であれ、そこに暮らす人々の生活に支障が出るくらいにたくさん雪降るが事が「大雪」なのではないかと言うことなのです。

つまり高い山の頂で降っていた雪が、気温の低下とともに平野部でも降り積もる頃になったという意味が、その中に含まれているのです。二十四節季が単に季節の移ろいを表現しているのではなく、人々の暮らしの中にこそ真意があると理解できるのではないでしょうか。

「大雪」

大雪について、暦便覧を見ますと「雪いよいよ降り重ねる折からなれば也」と説明しています。直訳すれば、雪が降り重なるから大雪なのだと言っている訳です。「いよいよ」というのは「ますます」という意味であり、「折から」は「ちょうどその時」という意味ですから雪がますます降り重なる(降り積もる)ちょうどその時が大雪だとそう言っている訳です。

「降り重なる」というのは、降った雪が融けないうちに次が降り積もるという事を言っているので、気温がそれだけ低くなっているという事の証でもあるのです。

そして積もった雪と寒さは、次の冬至、小寒、そして大寒へとつながって行くのです。

 

七十二候

それでは、七十二候における「大雪」の内容を見て行きましょう。

始めに初候です。略本暦は、閉塞成冬(そら さむく ふゆとなる)です。一方の宣命暦は、鶡旦不鳴(かつたん なかず)となっています。

次候の略本暦は、熊蟄穴(くま あなに こもる)となっており、宣命暦は、虎始交(とら はじめて つるむ)です。

最後に末候の略本暦ですが、鱖魚群(さけのうお むらがる)であり、宣命暦では、茘挺出(れいてい いずる)となっています。

今回の七十二候は、ご覧のように文面を一読しただけでは読み取れない表現がいくつか入っており、理解が難しい内容でもあるのですが、一緒に読み解いてみましょう。

 

初候

はじめに初候ですが、略本暦は閉塞成冬(そら さむく ふゆとなる)となっています。意味は、「天地の気が塞がって、冬となる」ということになります。

これは小雪の末候の宣命暦にあった、閉塞而成冬(へいそくして ふゆをなす)とほぼ同じ内容ですが、「而」という字が間に挟まっている点だけが違います。「而」は、「しかして」とか「しこうして」という順接の読みと、「しかるに」「しかれども」という逆接の二通りの読み方がある文字になっています。小雪の場合には、「しこうして=そうして」と順接の意味として読んでいくと理解ができます。

2つの候には「閉塞」という言葉が共通して使われているのですが、いったい何が閉塞していると言うのでしょうか。そもそも「閉塞」とは、閉じて塞ぐことであって出入りができない状態になっていることをいう意味する言葉です。つまりこの大雪で使っている「閉塞」は、天の気が上に昇り地の気が下にさがった状態で各々の気が通じ合わなくなってしまった状態を言っているのです。

ただ大雪の初候では、気が通じ合わなくなった「閉塞」を「そら さむく」と読ませている点が面白いと思います。天の気が塞がることで、空が寒くなるということなのでしょう。

 

初候の宣命暦は、鶡旦不鳴(かつたん なかず)です。鶡(かつ)は音読みで、訓読ではヤマドリと漢字辞典には出ています。ですからこの候の意味は、「ヤマドリが鳴かなくなる」という事になるのです。

しかし、ヤマドリは日本の固有種なので、宣命暦に出てくる鶡(かつ)は本来日本にいるヤマドリとは違う鳥であると考えるのが正しい見方だと思います。

それでは、鶡(かつ)はどのような鳥なのでしょうか。調べてみますと、中国の鳥で「耳雉(ミミキジ)」であるという情報がみつかりました。生息域も中国陝西省と出ていますから、古都長安にも生息していたことがわかります。耳のあたりから後頭部にかけて長い羽毛が生えているのが特徴です。ヤマドリやキジのように尾が長いのですが、フサフサして太いので違いが判ります。

私自身は、ミミキジを見たことはなく鳴き声も聞いたことがない鳥であるので、雪が降ると鳴かなくなるかどうかは定かではありません。

 

次候

次候の略本暦は、熊蟄穴((ま あなに こもる)です。これは誰が見てもわかる通り、意味としては「熊が冬眠のために 穴に籠る」という意味になります。

日本にはツキノワグマとヒグマの2種類の熊がいるのですが、世界にはこのほかに7種類の熊がいると言われています。ちなみにジャイアントパンダも熊の仲間です。中国語では、熊猫と書きますから、すぐにわかりますね。

クマは日本の中で最も大きい野生動物なのですが、冬眠することは良く知られた生態の一つです。これは食料の少ない冬を生き延びるために身につけた能力ですが、母グマは環境の厳しい冬眠中に出産をするのですから本当に生命力が強い生き物だと言えます。巣穴の中で子育てをするので、春にならないとかわいい親子熊の姿を見ることができません。

私は、草津白根山の山中で親子熊と遭遇したことがあります。両者に距離が少しあったことと熊が私に気づく前にこちらが先に気がついて接近遭遇を避けられたことで助かりました。春先の母熊は、子供を守るためにとても危険だと言われているので本当に命拾いしました。熊は、アニメキャラクターやゆるキャラなどとしても人に愛されている動物ですが、野生の場合はとても獰猛な生き物だということを忘れてはいけません。

次候の宣命暦は、虎始交(とら はじめて つるむ)となっていますが、日本では渋川春海によって貞享暦が作られたとき、「虎始交」が「熊蟄穴」に書き換えられています。日本に野生の虎がいなかったことから書き換えられたのかもしれません。

一方の中国では、虎は百獣の王とされ、龍虎と称して尊崇されています。数理暦学の中では、干支の中に寅(虎)がありますし、五行説では西を白虎としていますのでなじみ深い動物ではあります。さて宣命暦の虎始交(とら はじめて つるむ)ですが、意味としては「虎が交尾を始める」ということです。でも実際、大雪の時期に虎は交尾をするのでしょうか。

中国では、固有種のアモイ虎が揚子江周辺に生息し、日本の動物園でも比較的なじみのあるアムール虎が朝鮮半島やロシア極東の沿岸地方に生息しています。この他にもトラは、アジアの各地に生息していますが、繁殖期は地域によって異なるそうですから、宣命暦ができたころにおいても野生虎の繁殖行動を見る機会は実際に少なかったのではないかと思います。しかし、中国虎における繁殖行動は、東北部に生息するアムールトラが冬に繁殖期を迎えるとも云われていますので、該当するのはこの種ではないかと考えています。

 

末候

最後に末候です。まずは略本暦からですが、鱖魚群(さけのうお むらがる)となっています。意味としては、「鮭が群がり、川を遡上する」という事です。

ここでいう鱖魚(けつぎょ)とは、サケ科の淡水魚のことなのですが、日本にはいない魚という事で略本暦が編纂されたときに鮭を充てたのではないかと考えています。写真にもあるとおり、鱖魚と鮭の姿形はだいぶ違っていますが、日本に生息している同じスズキ目の赤目(あかめ)という魚がいて似ている気がします。ただ赤目は日本固有種で1mを超す大型種ですから、鱖魚とは明らかに違う魚なのです。また西日本の太平洋沿岸だけに生息する魚なので、略本暦に載ることもなかったのだと思います。

さて、サケが群がって川を遡上する姿は、テレビなどの映像で見たことのある人も多いと思いますが、遡上の時期を覚えているでしょうか。

「秋」と正しく答えられる人も、少なくないでしょう。

そうです、サケは秋を代表する魚でもあるので、「秋味」とも呼ばれているのです。さらに詳しく調べると、「北海道で、秋の産卵のために川をのぼってくるサケで、秋を代表する味の意から秋味と呼ぶ」と書かれてあります。ですから「大雪(たいせつ)」の時期である12月では、遅いのではと疑問が生じます。しかし、さらに突っ込んで調べてみますと、秋の遡上は、北海道のことであり関東地方ではかなり遅い時期にも遡上しています。現在のサケの遡上南限は、太平洋側は千葉県で日本海側は島根県とされていますし、実際茨城県筑西市では12月の遡上が見られると広報されていますので、「大雪」の遡上でも間違いがないというのが事実でしょう。

末候の宣命暦は、茘挺出(れいてい いずる)です。意味としては、「大韮が芽を出し始める」という事ですが、「大韮」とはどういう植物を指しているのでしょうか。調べてみますと、大韮はラッキョウの別称と出ていますので、大きな韮ではないようです。

一般的にラッキョウは、球根を植えて育てるのがほとんどですが、8~9月に植え付けを行って、秋・冬に成長させて翌年の6月ごろに収穫をします。途中、3~4月の途中で若採りをするのがエシャレットです。エシャロットではありませんよ。名前は似ていても、エシャロットは玉ねぎですからお間違えないように。

宣命暦に書かれるように、大韮(ラッキョウ)は中国原産の野菜ですが、仏教の中では摂食が避けられることのある五葷(ごくん)の一つとしても知られています。五葷とは、いわゆる精進料理で食べない食材のことです。仏教においては、殺生を禁ずる目的から動物の肉は食べませんが、においの強い野菜も食べることも避けています。この臭いの強い野菜のことを「葷(くん)」と呼ぶのです。主にネギ属の植物なのですが、ラッキョウもその一つという事です。

さて本題の「大韮が芽を出し始める」という事ですが、日本のラッキョウは秋には芽が伸びるようですので、末候にある茘挺出(れいてい いずる)は時期が少しずれているようです。

ただし秋に芽が伸びるというのは日本の場合ですので、中国でも同じ時期に伸びるのかは情報が無く良くわからないというのが実情なのです。

最後に「大雪」の宣命暦の中に鶡旦不鳴(かつたん なかず)、虎始交(とら はじめて つるむ)、茘挺出(れいてい いずる)の3つが出てきましたが、いずれも「礼記 月令」の「仲冬之月」に記述が出ていますので抜粋部分をお示ししたいと思います。礼記月令とは、1年の年中行事と天文・暦について論じられたものなので七十二候に関連する記述が載っているのです。参考までに原文を載せてみました。

「礼記 月令 仲冬之月」の中から抜粋

原文:冰益壯,地始坼。鶡旦不鳴,虎始交

訳文:氷益々壮に、地はじめて圻(さ)け、鶡旦(かつたん)鳴かず、虎始めて交はる

 

原文:芸始生,荔挺出,蚯蚓結,麋角解,水泉動

訳文:芸(うん)始めて生ひ、茘挺(大韮)出で、蚯蚓(キュウイン)結び、糜角解(お)ち、水泉動く。  ※芸(うん)とは、本の虫よけに用いる香草

東洋の暦の心に感服です。