佐藤一斎
「重職心得箇条」から学ぶ、
経営者を支える者の心得
第6回目は「刑賞与奪」
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第1回目 金兄妹から学ぶ
第2回目 酒と料理の組織論
第3回目 伝統と因習
第4回目 機に応じる秘訣 ファイザーと秀吉
第5回目 忙しさの方程式
重職心得箇条
佐藤一斎 刑賞与奪の権
刑賞与奪の権は、人主のものにして、
大臣是れ預かるべきなり。
倒(さかし)まに有司に授くべからず。
斯くの如き大事に至っては、
厳敷く透間あるべからず。
刑賞与奪とは、
罰すること
賞めること
与えること
奪うこと
評価・査定をして
それに見合う賞与や役職を与えたり、
解雇、左遷する権利である。
この権利を有するのは、
リーダー(社長)のみである。
管理職は、
その権利を預かっているにすぎないという意識で
気を引き締めて行わねばならない。
故に、当然のことながら、
この権利を部下に持たせてはならない。
部下が互いを査定し合うことなど、もっての他だ。
何よりも大切なことは、この権利を行使する際は、
厳格で透明性をもって行うことだ。
一つ間違えば、
組織の大問題に発展するため、
くれぐれも手抜かりがないように
注意する必要がある。
何を報償刑罰にするべきなのか
南洲翁遺訓 西郷隆盛
功には禄を、徳には地位を
功績があるものには報酬を与え
人徳があるものには地位を与えよ、
官職とはその人物の、
人徳、人間性を考慮して与えるべきである。
功績がなくても、人徳重視とし、
功績は立てたが、人間的成長が伴わない場合は、
棒給でそれを評価することをよしとする。
この西郷の言葉は、尚書(書経)引用であり、
古典的な方法であり、
官職と棒給(ボーナス・ベースアップ)を、
切り離した考え方だ。
課長や部長・専務や常務などの官職は、
長が就く以上、長(おさ)である。
社員を管理する立場である以上、
人間性が大切なのは当然だ。
故に、功績は立てるが、
管理職には適さない場合もあるし、
功績は立てられるが、
管理職になりたくない場合もある。
そしてもう一つ、
功績は立てられないが、
管理職に適する場合もある。
多様化する人材活用、刑賞与奪の権
有能な社員を評価しようと、会社は官職を与えるが、
マネジメントを嫌がり、スキルアップを望み、
役職についた途端離職するケースも増えている。
特に時代の過渡期は、
自分のことで手いっぱいで、後輩に教えたり
指導することに苦痛を感じる人もいるだろう。
その反面、
自分より成果を上げていない者が、
自分より上位に出世するのも、
プライドが傷つけられる。
マネジメントの重要な課題とは、
個々がどのような報償を望むのかを的確に把握し、
本人と共に何度も確認しながら、
その意識を共有することではないか。
もちろん、暦学の知識を活用すれば、
その発端を切り開くことは可能である。
しかし満足度の度合いは、その本人の経験や感覚など、
本人しかわからない場合も多いため、
暦学データを軸としながら、
相互のコミュニケーションを強めていく。
そしてまた、他が何を望んでいるのか、
組織内のコミュニケーションをとりながら、
理解度を深めていくことこそ、大切だと思われる。
何がその人物にとって、褒美なのか、
何がその人物にとって、刑罰なのか、
個々のニーズを把握しながら、
報償刑罰を決めていくことこそ、
多様化する人材マネジメントには大切ではないか。
給与による差別化
優秀・平均・低の社員に対し、
給与による差別化で振り分けるのはリスクが伴う。
優秀な社員が毎年10%のベースアップを得るのに、
平均の人が2%であれば、反感が生まれ、
全体的な生産性の低下につながる。
さらには従業員同士の結束も弱まり、
いじめの発生にもつながりかねない。
かといって、
報酬の差別化をしなければ
優秀な人材を失うおそれもある。
優秀な社員の満足度を左右する要素は、
報酬の他に、認知も大切だ。
つまり、管理する側がどのくらいの頻度で、
彼らの仕事内容について話し合い、
適切に評価をしているかだ。
社員の業務に対するフィードバックを
年に数回の人事考課だけで済ませている企業では、
社員が優秀であればある程、
過小評価されていると感じるだろう。
会社は優秀な社員を適切に認知し、
より高いレベルにく補助を与えることも大切で、
それ自体が報償になる場合もある。
例えば、個人では払えない高額の研修の受講は、
彼らのプライドも満足するし、
ベースアップ以上の魅力もある。
研修にかける費用が限られている場合は、
彼らがどのようにすれば
より高いレベルに成長できるかという視点で、
常に話し合い、
成長出来る業務に導けば、満足感は高まる。
刑賞与奪の権とは「生きるか殺すか決める権利」である。
彼らを生かすか殺すかは、
きめ細かい配慮と寄り添う気持ちも大切だ。
刑賞与奪の権を部下に与えた実例
重職心得過剰では否定しているが、
刑賞与奪の権を部下に与えることで、
躍進した企業がある。
アマゾンは2014年から、
物流センターの従業員を対象に、
年に一度、退職ボーナス制度を開始した。
(現在行われているかどうかは不明)
初年度の支給額は2000ドル。
上限の5000ドルになるまで、
毎年1000ドルずつ上積みされていく。
ユニークなのは、告知文の冒頭に
「このオファーを受けないでください」と書かれていて、
退社を奨励しているのではないという
会社側の意志が強く示されている事である。
退職ボーナス制度は、若手社員にとっては、
次段階に進むのに有利な、魅力的なオファーであるが、
物流センターのように
人の採用に労力が必要な
人材募集が難しい分野では異例なことだ。
アマゾンにとって、物流センターの停止は、
会社存亡の危機である。
それこそ刑賞与奪権であり、
アマゾンが生きるか死ぬかは、
物流センターにかかっている。
すぐに人材が集まる花形部署ではなく、
最も人が集まりにくい部署で行う。
通常ならまずはしないこと自体が、
ジェフ・ベゾスの経営者としてのセンスかもしれない。
つまり、会社の生殺与奪の権を、
組織の末端であり、体力的に過酷であり、
会社の基盤を支える、
物流センターの労働者に与えたのだ。
なぜこのような事をしたのか。
「社員が不満を抱えたまま働き続けることは、
社員にとっても会社にとっても健全ではない」
というシンプルな理由だという。
社内で最も過酷な労働環境にいる彼らに、
会社選択権を与えることは、
有効的な労働組合対策でもある。
彼らの不満を明らかにすることで、
会社全体の水面下にある労働環境の問題も明らかになり、
社員が気持ちよく働ける体制を
整えることが出来たという。
アマゾンは、毎年彼らに選択させることで、
透明感をもって、
福利厚生に力を入れると共に、
合理化・自動化に多額な投資、
労働コストの削減を図った。
その結果、
時価総額1.60兆ドル超(160兆円)の大企業に昇りつめたという。
東洋古典とは、
今の時代にどう生かすのか、思考力を養う学問であり、
そのままの形で活用するものではない。
先人たちの言葉に耳を傾けながらも、
独自のやり方を考えることこそ大切だ。
東洋古典といいながら、
欧米の例が多いのだが、
成功会社のマネジメントには、
必ず他が行わない独自性がある。
そして、彼らに共通していることは、
社員の個々の資質・能力を見い出して、
最大の成果が得られるように支援することだ。
理念を明確にし、独自性をもって事にあたる。
このシンプルな2点が、
成功の秘訣ではないかと思う。
社員にイノベーションを訴える前に、
会社のマネジメント事態に独創性がなければ、
時代にあった
人材活用はできないのではないだろうか。
山脇史端
一般社団法人数理暦学協会
下記サイトに要約文を掲載させて戴いております。
当協会はアジアビジネスコンサルタントとして
暦学を提唱させて戴いております。