佐藤一斎の記した重職心得箇条を、
専務や秘書、士業やコンサルタントなど、
経営者を支える人たちの
心得という観点から考察する。
東洋哲学を、リーダー哲学だと
捉える人は多いだろう。
大型書店に行くと、
リーダーのための東洋思想、
経営者の哲学啓蒙コーナーに
東洋古典関連の書籍は並べられている。
このブログのタイトルも、
「ビジネスリーダーに贈る」だ。
人の上に立つものは、
人間力を高めることの必要性か、
東洋古典=リーダー哲学の方が
カッコ良いからなのか。
しかし世の中、絶対的多数は、
リーダーより、
リーダーを支える人たちだ。
そのため今回は、
東洋哲理を、
リーダーを支える人たちの思想
という視点から考察してみたい。
リーダーを支える人たちには、
将来リーダーになりたい人と、
支える方が性に合っている人がいる。
どちらにしても、
支える仕事に就いた以上、
支えることに徹することが大切であり、
これを学んだ上で、リーダーになると、
上手に管理職を従えることが出来るだろう。
「リーダーを支える人」とは、
重役・経営陣、
コンサルタントや士業を
ここでは対象にする。
動乱期の創業者の質
現在のような時代の変わり目、
パラダイムシフトでは、
既存権益や固定概念を捨て、
新たな価値を見出すカリスマ的な
リーダー像が求められる。
独創的なアイデアとテクノロジーで
新しい市場を切り拓く
アントレプレナー的な質だ。
そのような質を持つ人物は、
性格的に「やんちゃ度」が高い。
平和安定期には、家康のような
バランスをとり地道に駒を進める
リーダー像が求められるが、
動乱期では、信長や秀吉タイプ。
個性的な経営者だからこそ、
固定概念や既得権益を打破して
新しい事業を立ち上げ、
世界に打って出ることが出来るのだ。
事業継承後、提携後に
求められるのは、このような革新的質である。
不採算事業を継承し、
そのまま経営下さいと言うケースなど
殆どないだろう。
自分たちでリノベーションを
起こせなかったから、
譲渡するケースがほとんどだ。
リノベーターは、
やんちゃなリーダーと、
それを支える側近達が一つのユニットとなり
機能することが大切だ。
このように、
「やんちゃ」なリーダーが求められ時代では、
彼を支える側近達は益々重要度を増す。
そうした側近へのマニュアルこそが、
佐藤一斎の記した重職心得箇条である。
最も権威ある学者、佐藤一斎が、
自身の出身藩である岩村藩の、
家督を継いだばかりの若き君主に仕える
重職のために著した十七か条。
これを筆写するために、
諸大名が大金を支払ったという事から、
いかに重要な
「経営建て直し、側近ノウハウ本」
であったかわかるだろう。
リーダーを支える人たちの心得
重職と申すは、家国の大事を取り計らうべき職にして、
此の重の字を取り失ひ、軽々しきはあしく候。
大事に油断ありては、其の職を得ずと申すべく候。
先づ挙動言語より厚重にいたし、威厳を養ふべし。
重職は君に代わるべき大臣なれば、大臣重うして百事挙がるべく、
物を鎮定する所ありて、人心をしづむべし、
斯くの如くにして重職の名に叶ふべし。
又小事に区々たれば、大事に手抜きあるもの、
瑣末を省く時は、自然と大事抜け目あるべからず。
斯くの如くして大臣の名に叶ふべし。
凡そ政事は名を正すより始まる。
今先づ重職大臣の名を正すを本始となすのみ。(重職心得箇条 第1条 佐藤一斎)
経営者を支える立場にいる者は、
その企業の大事な事を任され、
取り計らう役割を担っている。
そのため、
幾ら経営者と親しくなっても、
友達感覚に陥ってはならず、
社内においても、気安い人物、
軽々しい人物だと思われぬように、
威厳を保って接せねばならない。
何故かと言うと、
重職には、
いざという時の重しとしての
役割が求められているからだ。
いざという時、社員を不安から救い、
安心させることが出来なければ、
経営者を支える役割は担えない。
そのため、
常日頃から言動には注意をし、
威厳を保つことこそ大切だ。
小さなことばかりを気にしていては、
大局的なものの見方ができなくなる。
社員に迎合するような
雰囲気であってもならない。
重職(重役)とは、重い役割を担うのが仕事だ。
だから重職という。
常に重き役割である事を意識して、
その役割を担う必要がある。
リーダーは軽やかに、
重役は重々しく。
社長は、自分で作った会社なのだから、
自分の個性で従業員に接すれば良い。
社員と友達感覚で事業を進めたければ、
それでもよい。
動乱期は、
自分らしく行わない限り、
カリスマ性など生じない。
時代の過渡期では、固定概念に縛られず、
既得権益から離れ、
軽やかに活動することが大切なので、
軽々しい行動に見えるかもしれない。
故に、社長を支える立場の経営陣は、
威厳ある態度を貫くことが必要だ。
社員に対し、
厳しい態度や条件を提示せねばならない時、
いざというその時のために、
常日頃から、
厳しい態度で行わねばならないのだ。
社長の代わりに、
「嫌われ者」の役割を担う事もあるだろう。
それこそが、大切な役割である。
落ち込んだ社員を慰撫し、勇気づけ、
次の方向性を示すことは社長の仕事だ。
太陽と北風の陰陽バランスで運営しなければ、
社員は会社を嫌いになってしまう。
「リストラされたが、会社は好きだ。」
と思わせることは、
企業再生にも影響する。
人心の離れた組織は、対外的にも
立ち行かなくなってしまうだろう。
そのため、経営陣(重職)は、
日頃から威厳を保つことが大切だ。
いきなり厳しくするから、
パワハラだと言われてしまうのだ。
どうすれば威厳が備わるか。
言志録からそのノウハウを探してみよう。
威厳を保つノウハウ
第48条 臣道(佐藤一斎 言志録)
天尊く地卑くして、乾坤定る。
君臣の分は、已に天定に属す。
各々其の職に尽くすのみ。
故に臣の君に於ける、
当に畜養の恩如何を視て其の報を厚薄にせざるべきなり。経営者と管理職(コンサルタント)の立場は
天と地ほどの違いがある。
その違いを心に刻み、
職責を誠心をもって尽くすこと。
その態度こそが威厳に繋がる。
社長は幼いように感じても、
社長は社長である。
頼りないように見えても、
社長は社長だ。
故に、決して下に見てはいけない。
社長がいるからこそ、
あなたの仕事が発生している。
決して勘違いしてはいけない。
その心得こそがまずは絶対的な前提である。
第19条 (言志録)
面は冷ならんことを欲し、
背は煖ならんことを欲し、
胸は虚ならんことを欲し、
腹は実ならんことを欲す。
何がおきてもクールに感情を見せず、
温かい後ろ姿で、
組織を背負う度量があれば、
人々はついてくる。
先入観を持たず、
素直な気持ちで相手を捉え、
何が起きても動じず、尻込みせず、
どっしり構え、
内側からの強いエネルギーを感じられる
打たれ強い人物である姿こそが
威厳ではないか。
金与正氏(キム・ヨジョン)にみる、重職の役割
今回、金与正氏を例にあげて考察する。
金与正氏は、金正恩氏の実妹。(以降、敬称略)
兄、正恩が父親から将軍職を継いだ当初は、
ほとんど表に出てくることはなかったが、
兄の苦境を見るに見かねて、
積極的に表に出るようになった。
父、金正日は、
彼女を政治家として高く評価していたという。
彼女の中に自分と同じ性質をみたのだろう。
金正恩は、三男坊。
英才教育を施しても、三男は三男であり、
長男が自然に発する豪快奔放さはない。
しかも、12歳~16歳の多感な時に、
スイスで学んだ帰国子弟だ。
そんな彼が「卓越した領導者」の看板を背負わされ、
27歳で独裁国家を継承、
以降、微妙な国内外情勢の舵取りをしながら、
10年間指導者として君臨した。
崩壊した経済下の国民の不満と、
父親時代からの既得権益を有する人たちの
両袖をコントロールしながらの、
三代目継承者の舵取りは、さぞかし大変な事だろう。
国内疲弊が深まるにつれ、
より強い絶対的カリスマ像を求められ、
髪型を変えてみたり、
ミサイルを発射したりと
色々やってきたこの10年。
そのストレスがトコトン溜まり、
健康不安説が流れている。
「4年間スイスに留学した大金持ちの三男坊」
という経歴をみれば、
強権の将軍職より、
親しみやすい将軍像こそが、
彼の個性だとも思えるのだが、
厳しい国内情勢を考えると、
ありのままは許されない。
そこで登場したのが、妹、金与正だ。
彼女の強権的な言動は色々と言われているが、
重職としてみると高く評価できる。
表情は非常にクール、
微妙な笑顔を振りまきながら、
バッサリと行う。
リストラとか事業縮小とか、
従わない者の粛清とか、警告とか、
厳しいことは、全て彼女が行う。
彼女が表舞台に登場してから、
兄は国民と共に歩む、人気者のリーダー像を
思う存分見せることが出来るようになり、
楽しそうだ。
さすが陰陽五行論の国、
リーダーとそれを支える 金兄妹は、
絶妙の組み合わせだ。
リーダーは人気者、
ナンバー2は
厳格にやるべきことを実行する。
新聞の論説では、彼女が兄を差し置いて
リーダーの座を狙っているのではないかあるが、
賢い彼女の意図はそうではないと思う。
彼女がリーダーになると、
側近や民衆の不満が爆発して、国家はすぐに破綻する。
太陽の兄の影となる妹の役割、
陰陽は一つでないと成り立たない。
より高い志が必要なのは、陰の役割。
誰も嫌われ役になどなりたくない。
組織のためという高い理念がない限り、
その役割は継続的に担えない。
つまり、重職になったからには、
それなりの覚悟と人間性が必要なのだ。
コロナ禍の業績悪化に苦しむ会社
景気が良けれは、みんなが人気者でいられたが、
誰かが悪役にならざる得ない場合もあるだろう。
重役やコンサルタントの役割を
もう一度再確認して、
常日頃から、威厳を保つことが大切だ。
威厳とは、厳しさだけではなく、
温かい背中も必要だ。
金与正の微笑み外交。
女性だから自然にできる。
もし彼女が男性だったら、
強権性が目立ち、
権力争いと要らぬ憶測を持たれるだろう。
その視点で捉えると、
女性管理職の育成は、いざという時の懐刀。
サスティナブルな企業経営を行うためには、
必要な存在なのかもしれない。
山脇史端
一般社団法人数理暦学協会
下記サイトに要約文を掲載させて戴いております。
当協会はアジアビジネスコンサルタントとして
暦学を提唱させて戴いております。
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[…] 出典:東洋古典運命学「経営者を支える者の心得① 金兄妹から学ぶ」 この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。 […]