学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し
「学而不思則罔 思而不学則殆」論語 為政第二
書籍や講座で学んだだけで、
それをどのように実践的に活用すべきか
考えを巡らすことをしない限り、
そこに書いてある真の意義は分からないだろう。
学んだことの活用法に考えを巡らすだけで、
分かった気になり、
先例や過去の経過、専門家の意見を聞くことなく、
自分勝手な考えだけで
実行しようとすることは、大変危険なことである。
例えば、企業買収や事業提携、M&A。
士業であれば、財務諸表を読み解くことも、
法務の知識も豊富なため、
至極簡単に出来ると思うかもしれない。
過去の事例や法規制なども積極的に学ぶだろう。
しかし、それだけで上手くいくのだろうか。
理論だけで突っ走ると、
下手すると簡単な案件も複雑化し、
時間ばかりがかかったり、
途中で取りやめになる場合もある。
それではどうすれば防げるのか。
このケースの場合、どうしたらよいのかと、
考えを巡らすことが大切であり、
想像力を鍛えることが必要になる。
経験者の話を聞きながら、
自分だったらどうするか、
異なる意見を持つ人たちと討議することも大切だ。
このように、総合的に案件を学び討議する
ケーススタディ教育こそが、
ビジネススクールで行われている教育でもある。
専門教育を受ければ上手くいくというものでもない。
それでは、法律に詳しく、財務解析能力があり、
ケーススタディで鍛えられていれば成功するのか。
アメリカのビジネススクールは、
ケーススタディを万能に捉えているが、
東洋思想的観点からは、そうも簡単にはいかない。
特に、これから増加するアジア資本とのM&Aは、
東洋思想的観点から捉えることが大切になるだろう。
その極意を、王陽明が次のような言葉を残している。
先生(王陽明)曰く、只心を解せよ、
心明白なれば書物は自然に融會す。
若し心上につ失せずして、
只書上の文義に通ぜんとすれば、
かえって自ずから意見を生ず。
伝習禄 陳九川の記録
実践的儒教の提唱者 王陽明の提唱した陽明学は、
幕末の志士達の原動力にもなった思想理論だ。
志を抱くだけでは意味がない。
それを実現させることこそ大切だ。
この理念に心酔した若者たちが、
明治維新を実現させた。
その王陽明が推奨する書籍の読み方は、
その書籍を記した人の「こころ」を読め。
それを、自分のこころ(気持ち)に置き換えて、
自分のこころが納得できるかどうか、
その視点から検証することがポイントだ。
自分のこころで感じずに、
相手のこころを感じずに、
数字・理論で事を進めようとすると、
相手との折衝の中で、
自分のこころ(気持ち・想い)と
書類に書いてあることが相容れなくなり、
自己矛盾と衝突する。
自己矛盾を含んだ言葉など、誰の心にも通じない。
契約書を制作する際、
まずは相手のこころになって読んでみる。
自分だったらどう考えるか、どう思うか、
相手だったらどう考えるか。
自分のこころに落とし込んで読み解くこと。
交渉力のパワーを継続させるには、
数字ではない、こころを読め
それをしない限り、
説得力のパワーが継続できない。
予め相手の気持ちに立って考えれば、
相手のこころを読み解きながら制作した契約書なら、
質問を受けても明解に即答することが出来るだろう。
勿論、相手にとって不利で、自分にとって有利な条件もある。
相手に気づかれなかれば黙っていようというのは、
姑息で不信不義の考え方だ。
今までどんなに心を砕いて接していても、
相手が気づいた途端、
不正直のレッテルが貼られてしまう。
故に、
契約書籍(書類・契約書・条件提示)に
関係する人たち全員のこころを読め。
これを読んだ人たちは、
どう考えるか、どう捉えるか。
相手の立場に立って、徹底的にこころを読め。
それが明解であれば、
「我は言を知る。我は善く吾が浩然の気を養ふ。
(我知言。我善養吾浩然之氣。)」(孟子)
大局から物事の道理を捉え、
筋道立てて話す言葉が自然に湧き出てくる。
そのような言葉は、自然に相手のこころに入ってくる。
自分に有利、相手に不利でも、
その理由を明解に説明せよ。
相手からどんな質問を受けても、
相手のこころ(気持ち)を予め汲んでいれば、
相手のこころに寄り添う言葉を発することができるだろう。
関係する人たちのこころを理解出来ず、
数字や条件のみで応対すると、
相手も同じく、数字や条件のみで戦うため、
条件が合わず、物事は紛糾してしまう。
すると、時間だけが経過し、
いつまで立っても
結論が導きだせなくなってしまうのだ。
最後にもう一度、冒頭の論語の言葉に戻ろう。
学びて思わざれば則ち罔し(くらし)、思いて学ばざれば則ち殆し
何を学ぶのかというと、人情である。
相手の心情・人情を無視して、
数字だけ、理論や法律にこだわって
物事を進めようとすることは、
忠義心や志そのものを否定することになり、
例えその会社を買収しても、
引き継いだ社員から、
忠義心、志を求めることは出来ないだろう。
西郷隆盛こそ、心を読み解く天才でなかったかと思う。
故に大政奉還という
歴史上最大のM&Aに
成功したのではないだろうか。
山脇史端
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