二十四節気 季節で感じる運命学 《啓蟄》  染谷康宏

 二十四節気 季節で感じる運命学、今回は「啓蟄(けいちつ)」です。

啓蟄は、二十四節気の3番目で、太陽黄経は345度となります。2019年の啓蟄は、3月6日から3月20日までとなります。

「啓蟄」の啓は「開く・もうす」という意味であり、蟄は「ちつ・ちゅう」と読み「虫などが土中に隠れ、閉じこもる」という意味です。つまり「蟄」で、冬ごもりをして土に隠れていた虫が、「啓」で土に穴をあけ動き出す事を言っています。

啓蟄が終わる3月21日は、春分の日であり昼夜の時間が同じになるのですから、日差しも強くなり、ひと雨ごとに温かくなっていくのも当然ですね。春も本格的になるのです。

ところで、以前二十四節気は、漢字二文字で表されていて日本も中国も全て同じだと書いたことがあります。しかし、唯一例外があったのです。それが、この「啓蟄」なのです。

日本の二十四節気は「啓蟄」ですが、中国では「驚蟄」になっています。つまり「啓(ひらく)」ではなく、「驚(おどろく)」という漢字を使うのです。これには理由があります。元々は「啓蟄」でした。しかし、「啓」という文字が漢の皇帝(第六代景帝 劉啓)の名前と同じ漢字だったので「驚」に替えられたのです。

皇帝などの貴人の場合、名前の表記は生前は「名」、死後は「諱」と呼んで区別されます。それでは、どちらが本名かというと、諱が本名とされ、親や主君など目上に当たる者の諱(本名)を目下のものが使うことは、極めて無礼なことと考えられた為、臣下はその諱を口にしたり書いたりすることを慎重に避けてきました。これを、避諱(ひき)といいます。時代によって異なりますが、多くは王朝の初代と、現皇帝から8代前までさかのぼる歴代の皇帝の諱を避けていたようです。

その為、景帝の諱である「劉啓」という文字を用いてはいけない期間も長く続いたため、「啓蟄」という文字は使えず、「驚」に置き換えられました。
避緯の時期が過ぎて「啓蟄」に戻したようですが、「驚蟄」である期間があまりにも長く、人々の生活に根付いた言葉になっていた為、再び驚蟄に戻ってしまったようです。
避緯は、私たちが持ちている漢字にも、様々な変化を与えています。十干の壬という文字も、古い記述では任であり、人偏がありましたが、これも避緯の影響で壬になりました。

徳川家康が、豊臣氏が作成した鐘銘に「国」という文字を刻印したということで、大阪夏の陣が勃発したのは有名な話です。勝手に自分の名前を使ったという単純な話ではなく、家康サイドからみると、避諱に当たる大問題だったのです。その知識が豊臣家にはなかった為、簡単に考えて使ったものと思われますが、「知らなかった」からで済む話ではなく、豊臣家は滅亡します。もし中国古典に対する知識が豊臣家にあったら果たしてどうなっていたでしょうか。
礼節を知らないと、このような事例が相手に大義を与えてしまうようです。

もうひとつ、啓蟄の頃に雷が鳴るので虫が驚いて冬眠から覚め、穴から飛び出すという事で「驚蟄」と言うのだという説もあります。
3月から5月にかけて発生する雷は、「春雷」と言われていて春の到来を伝える雷だとされています。寒冷前線が日本列島を通過するとき、前線付近で雷雨が発生し、激しい雷がなることがあります。この雷鳴に驚き地中の虫たちが目覚めると言うので、別名「虫出しの雷」とも呼ばれているのです。まさに驚蟄なのです。

こちらの方が、映像的には面白さがありますね。
春雷は、地中の中の虫たちに動き出しなさいという合図です。

土の中でうずくまっていた虫たちには、啓する位では動きません。「雷を落として、驚かせる位でないと、動かず…」なのかも知れません。

 

暦便覧では

暦便覧(こよみべんらん)では、「陽気地中にうごき、ちぢまる虫、穴をひらき出ればなり」と書かれています。これは読んだ通りであり、解説の必要はありません。

さて、啓蟄では虫が穴から出てくるということなのですが、実際はどうなのでしょうか。

ここでは虫=昆虫と考えて書いているのですが、昆虫は、一般的には平均気温が10℃以上になると動き出します。

ちなみに、私の住む埼玉県の3月の平均気温は7.5℃です。3月1日から4月1日までの平均気温は、大雑把にいって5℃程度上昇しますので啓蟄の最後である3月20日ころは平均気温がちょうど10℃に届くようになります。きっと暖かい日があれば、最高気温はさらに高くなり、虫たちの活動が始まる条件が整ってきます。

と言っても、虫が活動するための条件は温度だけではありません。実は、虫たちが冬眠から目覚めるためには、日照時間も大切な条件になります。

温度だけを目安にしていると、温かい日が続いた後、急に寒くなってしまうので、虫たちもうかつに目覚めることはできないようです。しかし日照時間を目安にすれば、そうした間違いはありません。温度と日照時間などが整ってくる、啓蟄が終わる頃には、ようやく虫たちも本格的に目覚め、地面から這い出てくる事になります。

それでは、具体的に虫たちはどういう順番で目覚めてくるのでしょうか。

ミツバチは、花の咲き始めとともに2~3月には活動を再開します。再開というのは、ミツバチは冬眠しないからです。巣箱の中で蜂球になって蜜や花粉を食べて春が来るのを待っているのです。もちろん気温が11度以下に下がらなければ、ずっと活動を続けています。

次に目を覚ますのは、蟻です。蟻(アリ)は、秋にたくさん餌を食べて栄養を蓄え、冬の間は食べ物を食べません。童話の「アリとキリギリス」では、アリは夏に食べ物を蓄え、冬にそれを食べて暮らすという話が出て来るのですが、一般的にアリは冬にそなえて食べ物を蓄えるという事はしないのだそうです。唯一、クロナガアリという種類だけがエノコログサなどイネ科植物の種を集めて巣に運び込み、越冬の際に食べるのだそうです。

続いて活動を開始するのは、モンシロチョウで3月下旬です。関東地方では、さなぎの姿で越冬するのです。ただし、さなぎを暖房の効いた部屋においておくと、羽化してしまうそうです。

4月に入るとテントウムシが活動し始めます。テントウムシは、枯れ葉の下とか朽木の中とか、そうした場所で集団越冬しています。でも目に付く事の多いナナホシテントウムシは寿命がとても短く2か月程度で死んでしまうといいますから越冬は難しいかもしれません。

最後は、昆虫ではないのですがカエルです。カエルが動き出すのは、4月中旬頃です。冬眠中は、落ち葉の下や土の浅い所にいたりすることも多く、温かい日が続くと間違えて出てきてしまう事もあるそうです。

そろそろ花も咲き、虫たちが元気に飛び回る季節に入ります。

人に迷惑をかける虫もいるので、全て歓迎という訳にはいきませんが、虫にとって過ごしやすい季節になっていくことは確かな様です。

虫との出会いで季節を捉えるのも風流です。