第六章
夫易,廣矣大矣,以言乎遠,則不禦;以言乎邇,則靜而正;以言乎天地之間,則備矣。夫乾,其靜也專,其動也直,是以大生焉。夫坤,其靜也翕,其動也闢,是以廣生焉。廣大配天地,變通配四時,陰陽之義配日月,易簡之善配至德。
読み下し文
夫(そ)れ易は、廣(ひろ)くして大いなり。
遠きを言えば、則(すなわ)ち禦(ふせ)ぐことなし。
邇(ちか)きを言えば、則ち靜かにして正し。
天地の間を言えば、則ち備われり。
夫れ乾は、其の靜かなるや專(もっぱ)らにして、其の動くや直し。
是(ここ)を以て大いに生ずるなり。
夫れ坤は、其の靜かなるや翕(あつ)まり、其の動くや闢(ひら)く。
是を以て廣く生ずるなり。
廣大は天地に配し、變通は四時に配し、陰陽の義は日月に配し、易簡の善は至徳に配す。
和訳
宇宙のリズムをうたう「易」は、空より高く、大地より深い。
遠い未来に視点を置くと、
その流れは誰にも止められず、果てしなく自由である。
身近な日々を見つめるときは、
そこには静かな調和と、揺るぎない正しさが息づく。
天を象徴する「乾」は、
静かにとどまるときは一点に集中し、
動くときはまっすぐに突き進む。
だからこそ、大きな生成・創造の働きが生まれるのだ。
大地を象徴する「坤」は、
静かにあるときはすべてを包み込み、
動くときは優しく広がりを見せる。
だからこそ、広がりと繁栄が生まれるのだ。
この「広さと大きさ」は天地と呼応し、
移ろい変わる性質は四季と響き合い、
陰と陽の調和は太陽と月に通じ、
シンプルで無理のない善き道は、最高の徳に結びつく。
乾(健)
乾、元亨利貞。
乾は、元(おおい)に亨(とお)り、貞(ただ)しきに利あり。
東の空がわずかに白みはじめるとき、
朝日は、まだ眠る大地をやさしく抱きしめる。
黄金の光線は、草の露をきらめかせ、
その地に住む人、動物の心の奥底まであたためるように広がっていく。
朝日は、始まりの象徴だ。
あらゆる生命に目覚めを告げ、
無限の可能性に気づかせてくれる存在だ。
どんな暗闇も一瞬で溶かし、
世界を再び動かす命の息吹を与えてくれる。
その光は、まっすぐに突き進む。
その光線を浴びた人は、新しい世界へと真っすぐ歩みだす。
だからこそ、大きな生成・創造の働きが生まれるのだ。
坤
坤(こん)は、元(おおい)に亨(とお)る。
牝馬(ひんば)の貞(ただ)しきに利(よ)ろし。
君子、往くところ有れば、先には迷い、後には主(あるじ)を得る。
西南に往けば朋を得、東北に往けば朋を喪(うしな)う。
安んじて貞(ただ)しきを守れば、吉なり。
大地のように、
すべてをそっと受け入れる静かな強さを持つこと。
女性のようにしなやかに、
風の声を聴き、草の香りを抱きながら進むこと。
旅のはじめには、
霧の中をさまようように迷うかもしれない。
けれど、その先で必ず、
心の拠り所となる光に出会えるだろう。
仲間を求めるなら、
あたたかい風が吹く西南へ歩みを進めよ。
そして、ときには別れが必要なときもある。
それは新たな自分へ生まれ変わるための静かな儀式。
静かに、凛として、
揺るぎない信念を抱いたまま、
大地に根を張るように生きるなら、
最後には大いなる恵みと喜びが訪れるだろう。
だからこそ、広がりと繁栄が生まれるのだ。
第七章
子曰く、「易は其れ至れるかな!」と。
夫(そ)れ易は、聖人の以て徳を崇(たか)め、業(わざ)を廣(ひろ)むる所以なり。
崇きを知りて礼を卑(ひく)しとし、
天を崇くし、地を卑(ひく)しとす。
天地位(くらい)を設けて、易は其中に行(おこな)わる。
性を成し、存存す、道義の門なり。
和訳
孔子は言った、「易(易経)は、本当に究極の教えだな!」と。
そもそも易は、聖人が徳を高め、事業を大きく広げるためのものだ。
高きを知りつつ、礼を低くして謙虚であることを尊ぶ。
天の働きを尊び、地の在り方に倣う。
天地がそれぞれの位置を定め、その間を易の理が流れている。
人の本性を完成させ、それを生かし続ける――
それこそが道義に至る入り口なのだ。
天地が静かにその座を定めるとき、
その間をめぐる易の流れが、
人の性を育み、命を永らえさせる。
易とは、道と義の扉をそっと開く鍵。
内なる真実へと導く、静かなる光の道。