彖者。言乎象者也。
爻者。言乎變者也。
吉凶者。言乎其失得也。
悔吝者。言乎其小疵也。
无咎者。善補過也。
是故列貴賤者存乎位。
齊小大者存乎卦。
辯吉凶者存乎辭。
憂悔吝者存乎介。
震无咎者存乎悔。
是故卦有小大。
辭有險易。
辭也者。各指其所之。
彖(たん)は、象(しょう)を言う者なり。
爻(こう)は、変(へん)を言う者なり。
吉凶は、その失得(しっとく)を言うなり。
悔吝(かいりん)は、その小疵(しょうし)を言うなり。
无咎(むきゅう)は、善(よ)く過(あやまち)を補うなり。
是(ここ)を故(ゆえ)に貴賤(きせん)を列(つら)ぬる者は位(くらい)に存(そん)し、
小大(しょうだい)を斉(ひと)しくする者は卦(け)に存し、
吉凶を弁(わきま)うる者は辞(じ)に存し、
憂悔吝(ゆうかいりん)は介(かい)に存し、
震(ふる)いて无咎なる者は悔(くい)に存す。
是を故に卦には小大あり。
辞には険易(けんい)あり。
辞なる者は、各々(おのおの)其(そ)の之(ゆ)く所を指(さ)すなり。
1. 万物は象(かたち)と変化(動き)でできている
「彖(たん)」は、象(かたち)を語るもの
「爻(こう)」は、変化について語るもの
易経の構成(読み方)
① 卦 (シンボル)
② 卦辞(文王著)
③ 彖伝・・・卦のカタチの解説
「ものごとには形(象)があり、それが意味を持っている」という世界観。
世界や人生の「構造」や「全体性」をどう見るか、という視点から、卦を言語化したもの
「卦のカタチから言いますと・・・」と解釈する。
④ 象伝・・・卦辞の解説
「象に曰く」で始まる文書
大象(大きなイメージで捉えた卦辞全体の説明)
小象(それぞれの爻を説明したもの)の2種類
2.「吉凶」とはエネルギーの流れである
「吉」や「凶」という言葉は、ただ単純に「得るか、失うか」を示しているだけのものであり、絶対的な善悪や幸運・不運を決定するものではない。
西洋的二元論では、吉凶は幸運や不運に結び付けられがちだが、東洋思想では単なるエネルギーの動きや方向性の違いとして捉えられている。
例えば、あなたが神社でおみくじを引いたとする。
その結果が絶対的で永久的なものだと本気で信じる人はほとんどいないだろう。
その瞬間に、あなたが何かを得るエネルギーを帯びていれば「吉」とされ、何かを失うエネルギーであれば「凶」とされる。
ただそれだけのことなのだ。
陰陽理論で表現すると、「陰」とはエネルギーを外に放出する状態、「陽」とはエネルギーを内に凝縮する状態を示す。
陰は「凶」、陽は「吉」とされます。
これは良い・悪いを意味するのではなく、エネルギーがどちらの方向に向いているかを示すだけだ。
例えば大根をイメージして欲しい。
大根の葉はエネルギーを外に放出する陰の性質(凶)、根は土壌の養分を吸収し凝縮する陽の性質(吉)を持っている。
だからといって、大根の葉が不運で根が幸運であるとは誰も考えない。
この二つが共にあることで初めて一つの生命が成り立っている。
人生も同じだ。
私たちの人生とは、絶え間ないエネルギーの流れの連続だ。
重要なのは、目の前にある「結果」にとらわれるのではなく、その時々にどんなエネルギーが働き、どのような影響を与えているかを見極めること。
そして、そのエネルギーを上手に組み合わせて自分の人生を豊かに展開していくことである。
3.「悔い」や「ためらい」は成長の入口である
人は誰しも完全ではない。その不完全さを知っているからこそ、人は「後悔」や「恥じらい」を感じる。これらの感情は人間が自己を客観視し、内省する能力を持っている証拠であり、尊い感情である。
東洋思想、特に儒教の根本経典である『易経』には、「人間は不完全であるからこそ、それを自覚し自己研鑽によって成長する」という哲学が示されている。つまり、『易経』とは人間が自己成長するための体系的な指針であると言える。
「悔い」や「ためらい」は、単なる失敗によるネガティブな感情ではなく、むしろ自己成長の兆しである。逆に、こうした感情がまったく生じない人間は、自分自身を振り返る機会を失い、成長する機会を逸している可能性がある。
4. 過ちと向き合う勇気
間違いや失敗は誰にでも起こり得る。だが、失敗そのものが問題なのではなく、その過ちにどう向き合い、どう改善していくかが重要である。過ちを認識し、それを正す行動を取れば、もはやそれは「咎(とが)」とはならない。
これは自己に対してだけでなく、他者に対しても同様である。もし誰かが悔いやためらいを感じているならば、その人は成長への一歩を踏み出しているのである。失敗を恐れるのではなく、失敗から何を学び、どう活かすかが重要なのである。
『易経』の教えとは、人生のエネルギーの流れを理解し、日々の経験や感情に真摯に向き合いながら、人間性を深めていくための優れた指針なのである。
5.時代の変化への処し方 3ステップ
位 → 卦 → 辞
① それぞれの立場での視点(位)
世界は多層的な意味で成り立っており、どの層も相互に影響を与え合っている。
人類は平等だが、それぞれに「立場」や「役割」がある。
貴(上に立つ人)、賤(支える人)、それぞれが自分の場所を明確化し、その視点で考え、自分のポジションにふさわしい行動を意識することが大切だ。
② 問題のスケール感の把握(卦)
直面している問題は、大きな問題なのか、小さな問題なのか、全体を見ればそのバランスが見えてくる。
「今、何が一番大きなテーマか?」を読み解く力こそ必要であり、優先順位を見極めることこそ、最も重要なことである。
③ 吉か凶かを見極める、状況を説明する“ことば”にヒントがある(辞)
どうすれば良いのか、卦には、方向性が示されている。
活用のポイント
- 悩みや後悔は心の繊細な動きに現れる
違和感や不安は重要なシグナルであり、小さな兆しを見逃さない感性が必要だ。
- 失敗しても悔いがあれば問題ない
失敗は誰にでもあるため、反省し、リカバリーできれば「問題ない」。
過ちに対する気づくことから、問題を避けることができる。