佐藤一斎
「重職心得箇条」から学ぶ、
経営者を支える者の心得
第5回目は「忙しさの原因」
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第1回目 金兄妹から学ぶ
第2回目 酒と料理の組織論
第3回目 伝統と因習
第4回目 機に応じる秘訣 ファイザーと秀吉
重職心得箇条で学ぶ「忙しさの原因」
重職心得箇条 第8条 佐藤一斎
重職たるもの、勤め向き
繁多と云ふ口上は恥ずべき事なり。
仮令 世話敷(せわし)くとも
世話敷きと云はぬが能(よ)きなり、
随分の手のすき、心に有余あるに非ざれば、
大事に心付かぬもの也。重職小事を自らし、
諸役に任使する事能はざる故に、
諸役自然ともたれる所ありて、
重職多事になる勢いあり。
リーダー・管理職が、「忙しい」と口にするのは、
恥ずべきことだと思いなさい。
どんなに忙しくても言ってはいけない。
スケジュール管理が出来ていないと、
公言しているようなことだから。
いざという時、部下の手助けができるように
時間の余裕を持つスケジュール管理こそ、
マネイジメント能力だ。
こころの余裕がなければ、
社員の気持ち、社会情勢の捉える力、
公平な考え方など、最も大切な事に対して雑になる。
なぜ、時間管理が出来ないのか。
小さなことまで自分で行い、
部下にまかせることが出来ないからだ。
自分レベルの人間が社内にいない、
自分がやった方が早いと思う
自己過信。
原因は、この自己過信。
部下に任せられない自分なのだ。
上司がその状態から脱却できない限り、
部下は指示を仰がねばならず、
いつまでたっても育たない。
部下がもたれかかってくる体制が続くことで、
誰よりも、仕事量が多くなってしまうのだ。
(以上 山脇超訳)
経営者時計
石川和幸氏は、なぜ従業員が仕事をこなすのに
自分よりもはるかに時間がかかるのか
理解できなかった。
経営者の多くは、社内時計を操作できる。
そのため、社内時計を、
自分の「経営者時計」に合わせて進ませようとする。
経営者時計とは、
「的確に速く仕事を完了すべきだ」とする時間軸だ。
経営者にとって、会社は自分のものなので、
事業に対しての想いは、どの社員より強い。
経験も豊富で、目的も明確なため、
モチベーションを上げる必要もなく、
まわりとの調整を考えたり、
同調しながら行う必要もない。
上司に優秀さを見せたいという、
パーフォーマンスに費やす余分な時間も、
考慮に入れなくてもいい。
経営者は、
下(部下)と外(外部)を見ればよいが、
部下は上(上司)・下(後輩)
横(同僚)・外(外部)の
四方向を見ながら進ませねばならない。
与えられたタスクを、
自分の中に落とし込むにも時間を要する。
下と外を見ながら走るのと、
上下横外を見ながら走るのでは、
当然のことながら、
かかる時間も違うのだ。
部下を安心して走らせるには、
彼らの長所と短所を明確につかみ、
目的に集中させられるかどうか。
上手に手綱をとることだ。
(締切の仕事+予定外の仕事)×性格=忙しい
どれほど多くの仕事を抱えていても、
締め切りがなければ先延ばしができるので、
理論上は忙しくはならない。
締切の仕事を抱えた状況に、
「予定外の仕事」が発生すると忙しくなる。
勿論、性格も左右する。
人を頼りにする性格、
完璧さを追求する性格、
自分のペースでやりたい性格など、
性格の違いの不調和で、忙しさは発生する。
※性格・行動予測は暦学を活用することで把握しよう。
クレーム対応、急な仕事の依頼、
予定外の欠員、予定外のエラー…
それぞれの事象は小さくても、
予定していなかったタスクに時間を奪われると、
スケジュールは狂ってしまう。
予定外の仕事には、
新規事業の開発や助成金の申請など、
業務推進に必要な事項もある、
法律が変わる毎に対応せねばならない、
細かい作業もあるだろう。
取引先とのゴルフ、冠婚葬祭など、
代理人を立てられない場合、
子供が熱を出した、親が倒れたなど、
プライベートな問題もある。
通常業務のスケジュール管理は出来ていても、
予定外の仕事が発生すると、
途端に忙しくなり、判断力も疲弊する。
スケジュール管理とは、通常業務の中に、
いかに余裕を持たせるかということであり、
通常業務を、通常通りに行うことではないのだ。
スケジュール管理が出来ないと、
リーダーが本来やるべき事、
業務の改革や新規事業の推進などが、
余計な事に感じてしまう。
締切の仕事の合理化
締切仕事は、ルーティーンワークであることが多い。
それぞれが流れ作業のように、
連結して行う場合もある。
そのため、その間に、予定外の仕事が入り、
1人のタスクが遅れると、
その影響はプロジェクト全体に及ぶこともあるようだ。
「予定外の仕事」の多くは、
マニュアルがない場合が多い。
今回のコロナ対策など最たる例だ。
そのため、指示系統が確立されておらず、
部下もそれぞれ仕事を抱えており、
超過業務ストレスでクレームが生じても困るし、
通常業務が滞っても困る。
臨機応援な対応は自分がやるしかないと判断し、
結局は誰にも廻せず、
リーダー・経営陣、自らが担う場合が多くなる。
だから、誰よりも忙しくなってしまう。
どうすれば、その流れから脱却できるか、
二つの例を参照しながら考えてみよう。
忙しさからの脱却法
牧場の場合、餌を与え、搾乳するという
毎日のルーティーワークがある。
毎日搾乳しないと乳房炎になるため、
必ずその日に行わねばならない。
これは、締切のある日常の仕事だ。
そんな中、従業員がトラブルを起こし、
急遽対応せねばならなくなった。
これは予定外の仕事であり、
対応せねばならない経営者は勿論のこと、
欠員が出たことで、チーム全体もリズムが崩れ、
強いストレス化の状況に置かれてしまった。
そんな時、商社から新商品への業務提携が提示された。
しかし、こころに余裕がないため、
その仕事が良い話か悪い話か判断すら出来ない。
大至急資料の制作を言われるが、
パソコンは不得手だし、心の余裕すらない。
締切のある仕事と、
予定外の仕事で忙殺されているからだ。
本業が疎かになるという判断で、
その話は断る事にした。
リーダーを通常業務から解放せよ
リーダーが通常業務に組み込まれている状態こそ、
イノベーションを阻害する一番の理由ではないか。
課長がこのような状態だと、
幾ら素晴らしい企画が部下が提案しても、
余計な事をして、
自分の首を締めたくないという理由で、
握り潰す場合もある。
商機があるとわかっていても、
余計な事をすると、本来の業務が疎かになり、
評価が下がるという理由で、
考える事自体を停止する。
イノベーションを推進したければ、
「締切のある通常業務」から
極力脱出させるべきだ。
搾乳は、今やオートメーション化されている。
締切のある通常業務は、最もIT化しやすい分野でもある。
忙しさからの解放こそ、
イノベーションの環境づくりではないか。
NTTデータ九州の事例
忙しさの原因分析を進めると、
リーダーのマルチタスクが原因ではないかと
NTTは解析した。
突発的な保守作業や営業支援が発生すると、
リーダークラスが対応にあたる。
すると、他のメンバーには「待ち時間」が発生する。
待ち時間とは、仕事をしない時間ではなく、
リーダーの確認が必要なため、
次の段階に進めずに作業が滞る状態を指す。
仕事を進められないために、
メンバーは新しいタスクを始めてしまう。
結果、本来進めなければならない業務が後回しになり、
優先度の低い業務が進むことになる。
そこで彼らは、人に仕事を振るのではなく、
仕事に人を振るという考えを導入した。
たとえば、1人で12日かかるタスクは、
12人でやれば1日の作業量だ。
3人で行うと4日で済む計算だ。
予想外の作業に対応するメンバーは、
その都度確保し、
これには社内の精鋭部隊が担うことにした。
このやり方であれば、優先順位の高い業務から終わる事になる。
参照:日本TOC協会記事
水沼良枝さんの実践編
この記事を読んだ水沼良枝さんは、
家事の業務改革に活用することにした。
共働きの水沼家は、
家事は週末に、家族で分担して行っているが、
最近、高齢の親からの呼び出しが多く、
自分が対応せねばならないため、
自分ばかりが忙しいと強いストレスを感じていた。
夫は、庭の手入れと洗車、
大学生の娘は、家庭内清掃、
自分はその他、洗濯・トイレ掃除、
買い物・料理を担当している。
週末に行わないと、
翌週からの家庭生活に弊害が生じるため、
これは、彼らの締切のある日常業務だ。
親戚の結婚式や旅行、ゴルフなど、
予定できるものはスケジュールに組めるが、
親の急な呼び出しは、予定外である。
予定外の用事が増えると家の中は乱雑になり、
家族全員がストレスを感じ、
心の余裕が持てずに、互いに責任を擦り付け合い、
助け合いの気持ちもなくなっていた。
週末家事に費やす時間を自己申告させた。
夫は、3時間
娘は、2時間
自分は5時間
その中で優先順位の高いものから、
3人で一緒に行うことにした。
最初の100分は、全員が、
トイレ掃除・洗濯・買い物・料理
次の40分は、家庭内清掃、
最後の60分は、庭掃除と車の洗浄
これを3人一緒に集中して行った。
家事にかける時間そのものは変わらないが、
優先順位の高いものから行っているため、
途中で親に呼び出されても、
必要最小限の事は完遂しているため、
家庭生活の維持は保たれるし、
残った人が業務を継続させることもできる。
一緒にやってみて新たな発見もあった。
庭仕事位しか出来ないと思っていた夫が、
料理に向いていること、
娘の掃除機のかけ方だったら、
ロボット掃除機の方が上手かもしれないこと、
洗車はガソリンスタンドに委託する。
良枝さんは、ロボット掃除機への偏見を改め、
買い物は、洗車ついでに夫と済ませ、
不足分はネットスーパーを活用し、
環境に優しい除草剤を購入した。
一緒に動いたことで、
他者の仕事が客観視できたため、
無駄な部分が良くわかり、
全員合意のもと、合理化が行われた。
このようにして、
ルーティーンワークが合理化できたことで、
友達を招いて、バーベキューをするという、
「余計な事」を企画する気持ちにもなれた。
予定外の仕事の精鋭部隊は、
自分だと思い込んでいたが、
夫や娘の方が優秀だと言う事も良く分かった。
忙しさとは、心を亡くすと書く。
上下に並べると「忘」になる。
忙しさが過度になると、
忘れやすくなる。
若年性アルツハイマーの二次的要因は、
人間関係、不安、抑うつ、混乱、
身体的苦痛などがあげられている。
合理化を徹底的に進め、
余計な事を楽しめる社会を創ろう。
忙しさへの脱却こそが、
イノベーションの前提条件ではないだろうか。
山脇史端
一般社団法人数理暦学協会
下記サイトに要約文を掲載させて戴いております。
当協会はアジアビジネスコンサルタントとして
暦学を提唱させて戴いております。
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[…] 出典:東洋古典運命学「忙しさの方程式」 この記事は著者に一部加筆修正の了承を得た上で掲載しております。 […]