佐藤一斎
「重職心得箇条」から学ぶ、
経営者を支える者の心得
第4回目は「機に応じる」
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第1回目 金兄妹から学ぶ
第2回目 酒と料理の組織論
第3回目 伝統と因習
重職心得箇条で学ぶ「機に応ず」
重職(管理職・コンサルタント)の役割は、
時機を的確に把握して、
リーダー(経営者)を勇気づけ、
機(チャンス)を掴みとらせることである。
経営者の「今こそチャンス!」という感覚を、
様々な情報を照らし合わせて検証し、
従業員、株主、債権者、銀行などの
利害関係者 ステークホルダー全員に
論理的に納得させ、
全員一致の機運で挑戦して、チャンスを掴ませる。
これこそが管理職の重要な役割だ。
国が推進しているM&A、事業提携でも、
「今が時機だ」と分かっていても、
周囲を感情的に納得させられず、
機を逸してしまうことがある。
道理と情、
この二つの側面から全体調整し、
組織全体を前進させ、
リーダーに機(チャンス)をつかませること、
それこそが、
重職・管理職の大切な仕事でないかと、
佐藤一斎は述べている。
重職心得箇条 第5条
応機と云う事あり肝要也。
物事何によらず後の機は前に見ゆるもの也。
其機の動きを察して、是に従うべし。
物に拘りたる時は、後に及んで
とんと行き支えて難渋あるものなり。
リーダーを機に応じさせることこそ、
重職(管理職)の大切な仕事である。
機(時機)は、いきなるやってくるものではない。
冷静に状況をみていれば、ある程度は事前に察知できる。
その機を的確に察知し、今だと思ったら、
素直に呼応することが大切だ。
踏み出すことに勇気を持てず、
出来ない理由を探している内に、
機を逃してしまい、
後から悔いてもあとの祭り
後悔噬臍(こうかいぜいせい)
後になって悔やんでも、どうしようもないことになる。
その時機が「今だ」とわかっていても、
組織が硬直したままだと、
動かしたくても動かせない。
逃してしまうとどうなるのか。
時に流され、時間の経過と共に行き詰まりを感じ、
後戻りできない、
どうにもならない事態に陥るのではないか。
ファイザーはなぜ驚異のスピードでコロナワクチンを開発できたのか。
それでは具体的に、機に応じる策は何か。
不可能と思われていたコロナワクチンの開発を、
わずか8ヶ月で完成させたファイザーの事例を参照する。
1)企業理念 意識の統一
「患者ファースト」を企業理念とするファイザーは、
すべてのステークホルダー、
経営幹部・社員に理念を浸透させるため、
従来から、世界中の全ての自社の建物の壁に、
患者たちの写真を掲げていたという。
常日頃から企業理念を7万9000人近くの社員及び、
株主・投資家・関連企業に徹底的に叩き込んできた。
これにより、緊急時に関係者全員の意識が統一でき、
全員総意の動きが行えたのではないだろうか。
2)経営状態
それまでの経営陣の努力により、経営が良好な状態だった。
特に、平均水準だったR&D部門を、
歴代の経営陣が苦労して、
業界トップ水準へと生まれ変わらせていた。
現在の経営陣だけの努力ではなく、
歴代の社員の努力の蓄積が、今回の快挙につながった。
3)ビオンテック社との信頼
mRNA技術そのものは、トルコ系ドイツ人夫妻が創業したビオンテック社が所有していた。
ファイザーはこの技術を活用する研究途上にあり、
既に両社は良好な提携関係にあった。
このビオンテックの技術と、ファイザーの持つ研究、
調整、製造、流通の各能力とを組み合わせることで、
ワクチンの開発が実現した。
4)金銭がらみの細目は後回しにして、スピード最優先で合意した
少しでも早く、少しでも多くの命を助けることを最優先に、両社の協力体制は最終契約書なしで始まった。
それどころか、
2021年になるまで提携内容の細目すら決めておらず、
それにもかかわらず、2020年3月には投資に踏み切り、
極秘情報を教え合っていた。
両社は一緒に仕事をした経験があったので、
共通した高い倫理観を持ち、
大きなことを成し遂げるために、
素早く動きたいという点で最初から一致していたという。
特許が複雑に絡み合う医薬品業界で、
契約前の情報共有は常識を超えた英断だ。
投資リターンを考慮せずに始めたからこそ
実現できたものであり、「患者ファースト」という、
使命だけを考えて突き進んだ。
5)国の補助金は断った
政府から資金援助を打診されたが、
研究者がお役所仕事に追われて、
時間を浪費するのを避けるため断った。
応じていたら、あのスピードでは出来なかったという。
6)惜しまぬ投資
30億ドル(約3,330億)もの大型投資を即決で行った。
ちなみに、
一般的なワクチン開発は、10億~20億ドル超の費用を、
最大10年かけて投資をする。
今回は、それを短期間に一気に行った。
なぜ秀吉は中国大返しを実現出来たのか。
大軍毛利に対峙して戦闘態勢にいた秀吉が
本能寺の変の報に接し、わずか1週間で和平を結び、
2万以上の軍勢を率いて山城の戦いに臨んだ軍団大移動を
中国大返しという。
秀吉が天下人になる機であり、
それから2年後に秀吉は征夷大将軍となり、天下統一が完成する。
この中国大返しは、
当時の常識からは考えられない迅速さだと言われており、
奇跡の偉業と言われているが、果たしてそうなのだろうか。
秀吉がどのように機に応じたか見ていこう
1)大義(企業理念)の統一
主君の仇討ちという絶対的大義があった。
2 )毛利家との信頼の構築
毛利側の軍僧 恵瓊と従来より信頼関係を築いており、
信長が前線に向かう途上であり、到着するのは時間の問題、
甲斐の武田家滅亡の例もあることから、
到着前に休戦協定を結んだ方が得策だという説得が功を奏した。
3 ) 環境整備
信長中国出陣の道程は、
毛利・雑賀の軍勢に妨害される危険性があることから、
海上を避け、陸路をとることになっていたため、
明石から姫路までの西海道は路面修築を続けていたので、
道が既に整備されていた。
4)合理的システムの構築
中国路を転戦していたため、迅速な移動に慣れていた。
秀吉の軍団では、甲冑や刀槍を所有できるのは
一部の武将に限定されており、
武器は小荷駄で送るか、現地調達で、
現場で武器を渡すシステムを構築していた。
「兜着(かぶとぎ)」という
強靭な体力を持つ足軽部隊を編成、
彼らが甲冑は着込んで、半裸で戦場に走る武士に続く。
そのため、戦闘員である武士は、
半裸で駆け抜けていくことが出来た。
運ぶより着た方が早く移動できるという理由であり、
主人の甲冑を着るなど無礼だという
従来の常識を覆した合理的なシステムだ。
移動には、焼きむすび、水、草履などがそろえられ、
落伍者を収容するレスキュールームも完備、
夜間は篝火で昼間のように明るくした。
このようなことまで用意する軍勢は
秀吉の他にいなかったという。
5)惜しまぬ投資
姫路城内の貯えはおよそ66億円。
その全財産及び米穀を家臣に分け与えた。
勝てば天下が手に入るのだから、
66億円の投資など安いもの。
負ければ最期。命はないため、金銭など必要なくなる。
そこまでしてくれた大将のために、
部下は何とかして天下をとらせようと必死になって働いた。
他の武将であれば、小出しに出していただろう。
機を掴む法則
ファイザーも秀吉も、
いつ何時でも機に応じられる状態にあった。
そのため、奇跡ではなく、必然の理が働いている。
大博打と思うかもしれないが、
成功への確信という冷静な判断があっての選択である。
それには、リーダーを支える管理職が、
冷静な分析、状況解析を行っており、
それまでの企業理念の浸透が効果を呈し、
部下たちは自主的に動いている。
秀吉以外の武将はなぜ、その動きが出来なかったのか。
彼らは、本能寺の変という、大変動が突発した時、
どうしたらよいか分からず右往左往している内に、機を逃した。
譜代であるほど、信長の下で組織を構成している時は有能でも、
政権の根底がゆらいだときは、
独自の働きができず、また、部下の掌握力が弱かった。
ファイザーも秀吉も、部下の掌握力が成功の要因である。
社員の心をつかみ、社員を動かす。
この基本的な事が出来ていた。
二度とこの時には帰れない
姫路城出陣の際、本日の出陣は日が悪く、
「二度と帰れない悪日」だと僧侶から言われた。
それに対し秀吉は、
二度と帰れないとは、悪日どころか吉日である。
二度と帰れぬ覚悟がない限り、戦には勝てない。
戦に勝てば、上のステージにいくのだから、
ここに二度と戻ることなどない。
機に応じて上に行くか、
機に応じず、淘汰されるかのどちらかだ。
リーダーが、その事実をシンプルに捉えた力、
これもまた大切な要因である。
自発的に動く社員、部下の掌握力
ビオンテックとの共同開発や臨床試験、
初のmRNAワクチン製造といった過程は、
製薬業界だけに価値ある話ではない。
あらゆる業界のあらゆる規模の組織が、
自社の問題解決や社会全体に役立つ重要な仕事をする際に活用できる成功事例だ。
機を掴む秘訣は、部下の掌握力である。
ファイザーは部下に余計な労力をさせたくないと、政府の補助金を断った。
秀吉は、部下が走れる環境整備を行い、全財産を分配した。
患者ファースト・主君の仇討ちという目標だけを優先し、
その目的に向かって何万という部下の意識を統一した。
例え採算がとれなくても、
正しい目標に向けた壮大なる挑戦は組織を活性化する。
但し壮大な目標を掲げた時は、
それを実現するために
『従来の常識を破る考え方』で動かねばならない。
そして何より、社員の気持ちが、
喜んで協力することにもっていく経営陣の配慮こそが、
最も大切なことかもしれない。
参照文献
Harverd Business Review
夢のまた夢 津本陽著 文藝春秋
山脇史端
一般社団法人数理暦学協会
下記サイトに要約文を掲載させて戴いております。
当協会はアジアビジネスコンサルタントとして
暦学を提唱させて戴いております。
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