新入社員に向けて、「論理的思考」「論理的に考える力を育成する」などの書籍が、本屋で山積みされています。
ビジネスやコンサルタントでは、ロジカルシンキングという考え方が人気で、セミナーもすぐに満席になるようです。
ロジックの語源であるlogosは、ギリシャ語であり、それを体系化させたのがアリストテレスです。
ロジカルシンキングの祖は誰かというと、アリストテレス。アリストテレスから見たら「今更…」といった所かも知れません。
アリストテレスはプラトンと違い、現実主義で合理的。
極めて論理的な考え方で、論理学から心理学・政治学・天体学・動物学・美学など様々な分野に影響を与え、現在のあらゆる学問の基礎となる概念を作った人です。
彼が体系化した《演繹法》と《帰納法》という2つの論理学(ロジック)は、私達の生活にも大きく影響しています。
西洋的思想と東洋的思想、男性的思考と女性的思考を考察するにも、演繹法と帰納法というこの2つの論理体系を知ることは大切です。
演繹法
演繹法とは、《大前提→小前提→結論》を導き出す三段論法です。
演繹法を説明する時によく出てくる有名な例題がこれ
大前提 《人間は必ず死ぬ》
小前提 《ソクラテスは人間である》
結論 《ソクラテスは必ず死ぬ》
大前提と小前提が正しければ、論理的に正しい結論が導きだされる…という考え方が演繹法です。
これを、コンサルタントの現場ではどのように用いるか、検証してみましょう。
大前提
《消費者は、環境に配慮した車が好きだ。》
小前提
《電気自動車は、環境に配慮した車だ。》
結論
《ゆえに、消費者は電気自動車が好きだ。》
演繹法の前提は、一般的・普遍的な内容となります。
その前提から、個別的で具体的な結論を推論するという考え方です。
しかし、この理論だけでは、価格や利便性などを考慮していないため、売上が上がるかどうかまでは導きだせません。
演繹法とマーケティング
大前提
《日本人の女性は、静かで奥ゆかしい大和撫子である。》
小前提
《Dさんは、日本人の女性である。》
結論
《Dさんは、静かで奥ゆかしい大和撫子である。》
実際、Dさんは何でも言いたい事をいう、キャリアウーマンだとしたら、
《Dさんは、静かで奥ゆかしい女性ではないから、日本女性ではない》という事になり、
故に、《日本女性であるならば、静かで奥ゆかしい大和撫子でなければならない。》と定義されます。
えっそんな!と思うかもしれませんが、今から30年前まで、この理論は平気で通用していました。
現在のように、価値観が多様化し自由な考えが許される時代になると、この演繹法では定義しきれない事が多くなります。
つまり、時代に合わせたマーケティング調査をきちんと行わないと、大前提の定義が固定観念に凝り固まってしまうのです。
19 世紀まで、アリストテレスの論理法は多くの人にそのまま受け入れられてきましたが、極めて単純な推論にしか適用できない矛盾もありました。
しかし、非常に永い間西欧の考え方として君臨した為、ビジネス書やマーケティング本には、いまだにこの考え方の影響は強く反映しているようです。
演繹法と運命論
この理論は法律や神学では非常に便利なので、ローマ帝国やキリスト教義に積極的に活用されました。
大前提
《人を殺した者は、処罰されなければならない》
小前提
《Cさんは、人を殺した》
結論
《ゆえに、Cさんは処罰されなければならない》
これであれば、Cさんが異国人でも処罰の対象とする正統性が確立できます。
大前提
《私達は宇宙の法則に従って生きている。》
小前提
《宇宙は神により創造された。》
結論
《ゆえに、運命は神が決められたものであり、受け入れねばならない》
キリスト教では、運命とは神が定められたものあり、それに従う事こそが、神との繋がりになるのです。
演繹法と北朝鮮問題
女性は感性で捉えるから論理性がない…とか、もっと論理的に説明せよ…と言われます。
こうした考えは、アリストテレスが言いだした言葉なので、
《大前提》アリストテレスは男性である。
《小前提》男性は論理的に考えることが好きだ。
《結論》アリストテレスの論理的な考え方は男性に受け入れられやすい
となります。
プラトンはご存知の通りイデアの人ですから、どちらかというと非常に女性的かも知れません。
《大前提》プラトンは男性である。
《小前提》男性は論理的に考えることが好きだ。
《結論》プラトンは論理的に考えることが出来る。
これは事実と少し矛盾していますよね。演繹法とは、実際このように矛盾を抱えた理論です。
実際プラトンは幾何学を愛した人ですから、イデア論もプラトンの中では論理性のある考え方ですが、アリストテレスの論理性とは違います。
プラトンはLGBTだったと言われていますので、何となく腑に落ちます…。
しかし、この演繹法のみで理論展開をすると、大前提に人間の先入観や偏見が入りこんでしまう恐れがあります。
ナチスドイツのユダヤ人の大量虐殺や、日本の大陸侵略、文化大革命など人類の悪しき歴史は、この演繹法のみによる、為政者の先入観や偏見を悪用した使い方であり、民衆扇動に使われました。
実は、これは現在もこのように使用されています。
例えば
大前提 《北朝鮮はミサイルを開発している》
中前提 《武器を開発する国は戦闘的だ》
結論 《北朝鮮は戦闘的で危険だ》
この理論の中に、《他にミサイル開発をしている国》のことや、《武器を開発している国》の事は述べていません。
北朝鮮の肩を持っている訳ではありませんが、冷静に真理をみていき、根本的な原因を考察する必要があるのです。
演繹法だけを使用すると、言いだした人の先入観や偏見で不適切な前提を立てられてしまい、そちらに誘導される可能性があります。
しかし、論理上には、正しい結論に導かれているように感じる為、論理的に正しいような錯覚を覚えてしまうのです。
この不具合を調整して正しい結論に導くのが、「帰納法」になります。
帰納法は演繹法を検証する方法であり、演繹法は帰納法に論理性を与える方法です。
アメリカはミサイルを開発している
ロシアはミサイルを開発している
中国はミサイルを開発している
北朝鮮はミサイルを開発している
と、データを羅列しながら考察していく方法が、次回説明する帰納法になります。
アリストテレスは、この2つの理論の併用で冷静な解決法を導きだす必要性を述べています。
私達は、為政者の都合が良いように演繹法だけで民衆を扇動する危険性を常に認識し、冷静に世の中をロジカルに捉えていく必要があるのです。
AI時代のコンサルタント達へ
若手ビジネスマンのプレゼンを拝見すると、演繹法だけで展開しているな…と感じることが多々あります。
大前提 《SEOが高い程、ビジネスは成功する》
小前提 《御社は、SEOが低いから成功していない》
結論 《御社のSEOを上げれば、ビジネスで成功する》
《SEOが高い程、ビジネスで成功する》という大前提は、どのようなデータ解析に基づき定義されているか、基礎データの提供を求めても、クライアントの業種に適合したリサーチした上でプレゼンに臨むコンサルタントに出会ったことは、今までありません。
検索サイトの統計データを提示し、それで終わりという事が多く、それを指摘すると、リサーチ会社が必要だと言われます。
しかし、本来、論理的思考の論理とは、自分の頭の中に構造を作りこむことなので、彼らの身近な人で対象者の意見を集積し、統計立てることで論理的思考を、構築することが大切になります。
つまり、「実際に自分でデータを集める」という、前時代的に見える作業は、コンサルタントがクライアントと共感するために必要な作業です。
解析データはあくまでも帰納法のひとつに過ぎません。
検索サイトのデータしか活用できないコンサルタントは、確実にAIに負けるでしょう。
AIの方が絶対に的確ですし、逆に言うと統計データそのものをAIが操作する恐れもあります。
人間しか出来ない事は、身体を張って感覚で感じることです。
その作業を通さないと、論理的思考ができません。
実際に、物を購入する人達は人間です。
そのため、AIという機械の予測より、生身の人間が考える論理的思考の方が有利ですが、それには経験と実績の累積が大切であり、それがないと論理性思考、ロジカルシンキング能力は身につかないでしょう。
次は、演繹法とセットで捉えて欲しい、帰納法について説明します。
2000年以上前に、アリストテレス大先生が打ち立てた理論をお楽しみに!